(続)共生的窒素固定について

NPO法人 日本バイオ技術教育学会
理事長 小野寺 一清

しかし植物の光合成は葉という分化した細胞が行うので、根、茎のように光合成をしない細胞内にnitrogenase系を遺伝子工学で導入できればこの問題を克服できるかもしれない。

マメ科植物とcyanobacteriaについて話を進めるといいましたが、cyanobacteriaというあまり聞きなれない微生物について説明します。水圏にも陸圏にも生息しているが、長い間algae(藻)として分類されていて、これは酸素発生型の光合成をしているという観点から名付けられていたが、現在はバクテリアに分類されている。Gram-negative prokaryote であり、一般的には単細胞であり、filamentを形成するものもある。

ここでは植物と共生しないで単独でN2固定をする1heterocystous cyanobacteriaについて述べる。                     

cyano

Cyanobacteria

光合成と窒素固定と両方の反応が出来るバクテリアです。図の中の□で囲った細胞でNをアンモニアに変換し、他の細胞は光合成で得たエネルギーを含む全ての有機物を□へ運搬する。

このバクテリアはfilamentを形成して、分化したheterocystを形成して、この器官がN2固定をしている。他の細胞は光合成をして糖類を合成している。N2固定の最大の敵は酸素なのでheterocystには酸素が侵入しないように、特別な外膜をもち、酸素生産性の光合成系IIが機能出来ず1型の光合成系だけを持っている。固定されたN化合物はfilamentを形成しているvegetative 細胞に輸送され、その代わりに光合成で作った炭水化物をheterocystに与える。このような事実が最初に発見されたのは、ごく最近のことである。

 vegitative細胞と、どれくらい離れてheterocyst細胞が作られるかは、一定ではなく接種されて24時間後には、ヘテロシスとは形成される。このような巧みな細胞の分化が起こるメカニズムは複雑であると予想されるが、研究は始まったばかりである。

 私が大学院の学生として行なった実験を振り返ってみると、植物の生き方の巧みさを思わざるを得ません。植物の種から芽が出て、花が咲き、結実し、紅葉して、落葉するという現象は,物心ついたころから誰でも不思議に思います。タバコ、ポプラでは葉の組織から完全な植物が再生します。このような特性のことを、細胞の分化全能性といいます。時系列に従って形質が変化する現象を、遺伝子の発現で説明するのが近代生物学の方法になっているのですが、このように理解されるようになったのは、ごく最近のことであり研究は現在進行中です。

 当時名古屋大学の助教授であった久保秀雄博士はleghemoglobinを発見して、世界的に有名でした。私が現地で採集した根粒を持って東京に帰って来ると、車で東京駅まで迎えにきてくださり、夕食をご馳走してくださいました。私の仕事もこのleghemoglobinが中心にならざるをえませんでした。しばらくして植物細胞への遺伝子導入法はDr Schell,J.S; Science;237,1176(1987)により発見されました。

 最後に私の窒素固定研究を共にした人たちについて、先に述べたDr Postgateにならって「忘れえぬに人々」として書いてみたいと思います。

1969年に3年間という短期間ではありますが、Ontario Cancer Institute(O.C.I)で独立して、研究をする機会が与えられました。その時Dr Berry Rolfe (オーストラリア)とofficeを共有することになりました。彼はCanbberaにある大学で、窒素固定の研究に興味のある研究者を募集しているので、私から窒素固定について勉強してから、帰国したいと思ったのです。私は微生物の遺伝学を彼から学ぶことにしました。これまでと違うことは、一日が英語を話すことで始まり、午前中は彼の質問に答えることに費やされました。私は知っていることは全部教えました。

 RESEARCH

しばらく彼と付き合ううちに、彼は日本文化にも興味を持ち、様々な質問してくるようになりました。オーストラリアに帰国する前に日本を訪ねたいということでした。

ある日、川端康成のノーベル文学賞の受賞講演の英語版の記事を持ってきて説明しろというのです。サイデンステッカーさんの翻訳だったと思います。「美しい日本の私」という題です。今でも川端康成随筆集(岩波文庫)で読むことが出来ます。そのとき日本文化のことを勉強しないといけないと思いました。約束したようにオーストラリアに帰国する途中に日本に来て、東大でセミナーをしてくれました。私のことをAsian twinと紹介しました。時代を先取りしていたのかもしれません。日本に来た彼を奈良、京都を案内しました。

彼と共通の研究テーマとして「がん細胞のモデルとしてのコリシン耐性の大腸菌」としました。この時の知見を基に私は帰国後5年間にわたりRNAガンウイルスに対する薬の研究を行いました。

当時マウスのRNAガンウイルスは発見されていましたが、ヒトでは発見されていませんでした。数年後エイズウイルスをはじめとして、HTLV-1が発見されましたので、早速ヒトの成人性白血病の細胞に効果があるかためしてみました。ヒトとマウスで原理的に差はないので、ヒトRNAガンウイルスにも有効であることが分かりました。

彼もめでたくCanberraの大学で職に就くことが出来て、今ではオーストラリアを代表する窒素固定研究者になりました。ドイツのケルンで開催された窒素固定の国際会議で一度会いました。彼は自分の馬を所有して、子供たちと楽しく暮らすことが夢でした。しかしこの時この夢を達成していませんでした。夢を達成することは難しいことですね。

最後にJ.Schell博士(ベルギー)について述べます。先生は私より2年先輩ですが、アメリカでの研鑚の終わりに、わが研究室を訪問されました。先生と先生の奥様と上記のテーマで共同研究をして、論文も数編書きました。先生はドイツのケルンにあるMax Planck研究所に職を得て帰国する途中のことでした。帰国後シェル先生はTiプラスミドを発見により、人々の注目を浴びて、日本の国際科学賞を1998年に受賞されました。彼は若いころ動物学から研究生活をはじめて、植物で成功して大きな業績をあげました。

若い人たちの活躍を祈念して私の話は終わりとします。 

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