21世紀の生物窒素固定研究の方向

NPO法人 日本バイオ技術教育学会
理事長 小野寺 一清

私は1967年東京大学農学部の大学院で共生系窒素固定の研究で学位を頂きました。

博士論文のコピーとCurrent Plant Science and Biotechnology in Agriculture Biological Nitrogen Fixation for the 21st Century,1997, Kluwer Academic Publishersを机上に置いておいて以下の文章を書こうとしています。私の学位論文の序文をそのまま書きます、そうすることが50年の窒素固定の研究の歴史を理解するのに最適な方法だと思うからです。一言一句も文章は変えていません。当時はPCという便利なものはありませんでしたが、私は印刷屋さんに依頼して当時としては外見だけは立派な論文を仕上げました。

第1章                 序論

生物による地球における窒素固定が、地球に於ける窒素の循環に重要な役割をはたしていることは古くから認められていたが、その反応機構についての研究は1959年にDu Pont化学工業会社の研究者たちにより、Clostridium pasteurianum の無細胞標品で窒素固定に成功したことに始まり、以後現在に至るまでに、フェレドキシンの発見を含む、数多くの新しい興味ある事実を提供した。また近年Azotobacterでも同様な研究が進められている。

これら単生菌の窒素固定とは別に、生物による窒素固定を代表するものとして、共生系の窒素固定、ことに根瘤によるものがある。この系は実際の農業上の重要な問題であるにもかかわらず、生根瘤及び根瘤切片による短時間の窒素固定がやっと行われている程度である。

そこで、この共生系窒素固定の研究を生化学的レベルで行い、反応機構を解明するために

本研究を行った。本研究は1964-1966年にわたり行った。

共生系には大きく分けて、マメ科植物の根瘤と非マメ科植物の根瘤とに区別される。

マメ科植物の根瘤はRhizobium属の細菌が根にはいり、根瘤を形成し、侵入したRhizobium

はバクテロイドとなり、はじめて窒素を固定するようになる。非マメ科の植物の根瘤菌はマメ科植物のように、種々の微生物が内生菌として報告されている。放線菌、藍藻に至るまで、種々の微生物が内生菌として報告されている。しかし、根瘤から分離された内生菌を接種して、実験的に根瘤を形成することは現在のところ成功していない。著者は共生系の窒素固定の研究をするにあたり、適当な材料を検討するために、非マメ科植物の根瘤の窒素固定能を調べることから研究を始めた。何故ならば、非マメ科植物の根瘤の方がマメ科植物の根瘤より、根から根瘤を切り離しても、比較的長時間活性を保つことが報告されているので、材料としてマメ科植物より適切なものが。見出されるかもしれぬと考えて検討した。しかし、非マメ科植物の内生菌の単生における窒素固定を調べてみると、非マメ科植物の根瘤の内生菌には、根瘤中に生育しなくとも、窒素固定するものが、比較的多く含まれていることが分かり、非マメ科植物の根瘤の窒素固定は、厳密な意味で共生系窒素とは考えられない面があるので、以後の研究は材料として、マメ科植物の根瘤を研究した。マメ科植物の根瘤の窒素固定の根瘤の切片で得られた知見にとどまっているために、不明の点が多い。そこで根瘤の磨砕液、および、無細胞抽出液を調整し、窒素固定を検討し、Clostridium pasteurianum およびAzotobacter で得られた知見と比較するのが本研究の目的である。単生菌の窒素固定の研究から、現在のところ、窒素固定とは還元的に反応してアンモニアになる反応で、大別すると窒素を還元するために水素を作る系が関与していることが知られている。根瘤の場合でも、ほゞ同じ系が働いていると考えて、根瘤のヒドロゲナーゼ系の若干の性質を調べた。以下本研究を、非マメ科植物の根瘤の窒素固定、マメ科植物の根瘤の窒素固定、及びマメ科植物の根瘤のヒドロゲナ-ゼの研究を3部に分けて述べる。本研究は共生系窒素固定を解明する第1歩であって、今後の進歩を大いに期待できる分野である。

以上が序文である。私の学位論文では根瘤と書きましたが、現在では根粒と書かれているので、この序文以外は根粒と書きます。さて共生的窒素固定という言葉に当初から疑義がもたれていました。寄生ではないかという疑義です。微生物が窒素固定をするのは自分が生き延びるためであり、決して植物の生活を助けるためではないという疑義です。私もそういわれれば、同意せざるを得ませんでした。しかし流行というものは恐ろしいものです。

ある期間この言葉は人気のある言葉でしたが20世紀の終わりには、この言葉はすたれて、植物と窒素固定微生物の相互作用という言葉が主流になっています。21世紀に活躍される若い人のために書いているのですから、出来るだけ新しい表記を使います。

植物はマメ科植物と非マメ科という表現にします。

 土壌に生育する植物が成長するのに最も大切な元素はNである。空気中の80%を占める元素Nは微生物によるN2固定なしにはいかなる植物も生育できない。N2は一旦NH4に変化されなければ植物は利用できないのです。考えると不思議ですね。

私の論文が戦後の第1世代とすれば、第2世代としては加藤悟郎氏の論文は立派なものです。しかし生化学の研究室とすれば、微生物から見た窒素固定の研究しかできませんでした。

幸いなことに当時の東京大学の農芸化学科には植物栄養学と肥料学という講座があり、三井進午教授の研究室では植物の研究が盛んでした。代表者としては渡辺巌先生と国際窒素固定研究の会頭の南澤究先生がその代表者です。渡辺先生は二日目から学会に出席されていて、フィリッピンのRice Instituteの所長時代のお弟子さん達と談話されておられました。2014年の6月には 南澤究先生の研究室「東北大学」を訪ね研究員の方から現在の最先端の研究成果を勉強しました。

私がこの人たちから刺激を受けた代表的論文のリストを下記に記します。是非ご一読ください。

G.Kato et al., Agric.Biol.Chem   43,1085-1092(1979)

G.Kato et al., ibid .,              44,2843-2855(1980)

G.Kato et al.,Plant Cell Physiol., 759-771(1981)

Watanabe and P.A.Roger., Nitrogen Fixation in Wetland Rice Field in Current Developments in Biological Nitrogen Fixation  Edited by N.S. Subba Rao

南澤究 et al、蛋白質,核酸、酵素、51,(2006)

知名度の高い大豆を含むマメ科は根粒という目に見える器官が形成されるので、昔から人々の注意をひき、緑肥として農業に取り入れていました。ローマ時代に始まっていたようです。

マメ科植物とは別に最近研究の進んだ、heterocystous  cyanobacteria という微生物が注目を集めています。この2種の系について述べるつもりです。

先ず植物から微生物に働きかけることから、一連の反応が励起されることは推測されます。

そのような反応の場を‘rhizosphere’ という言葉で表現しています。日本語訳はまだ決まっていないのでこの言葉を使います。

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