生物窒素固定研究の夜明け

NPO法人 日本バイオ技術教育学会
理事長 小野寺 一清

Clostridium pasteurianum (クロストリジゥム) という窒素固定菌はWinogradskyにより100年前に発見された嫌気的な微生物であるが、窒素固定という反応は嫌気的な反応なので、この菌が選ばれたのは理解できるが、酸素を完全に排除することは容易ではなく化学工業デュポン社だから出来たことである。しかし生物窒素固定を利用してアンモニアを生産の実用化は不可能であると判断され、この時このプロジェクトに参加していた、多くの科学者は私的、公的な機関に分散して、現在までの基礎研究が継続されて発展してきたのである。

ニトロゲナーゼの生化学

はじめに

空中中の窒素を還元して、アンモニアを生成する反応を窒素固定といい、工業的にはハーバー・バーボッシュ法によって行われる。これが近代の化学工業(1913)の始まりである。これと同じ反応を行う酵素をニトロゲナーゼという。多くの窒素固定菌がこの酵素を持っている。

2 +3 H2 ⇄ 2NH3の平衡アンモニア濃度は系の圧力が高いほど大きいので、アンモニア合成は数百atmの高圧下で行われる。反応速度を高めるため反応温度は400-500℃で、触媒としては鉄を主触媒とし、アルミナ、酸化カリウムを加えたものが用いられる。酵素は生体触媒であるから、これらの反応を行うためには金属を含むタンパク質であることが予想されるが、実際2種類の金属を含むタンパク質が関与している。ニトロゲナーゼといわれるタンパク質はComponent ⅠとComponent Ⅱとに分離できる。dithioniteを還元剤として、反応液にエネルギーとしてMg-ATPを加えるので、下記の反応は不可逆となる。

N2+6H+ + 6e+12ATP +12H2O   → 2NH3 + 12ADP +12Pi

2H++2e+4ATP +4H2O → H2 + 4ADP+ 4Pi

 この反応中に生成されるHは水の中の水素イオン、またはプロトンが還元されて生成されると表現される。この表現は厳密には正しくないが、ニトロゲナーゼの研究者は慣習としてプロトンが還元されると表現しているのでそれに従う。

実験的にはD2OからD2が生成されるのである。生化学の反応としては次のように表現される。

N2 +  HO +  nATP → 2NH3 + H2  + nADP +nPi

ここでnの値はどの微生物から得られたニトロゲナーゼによるかにより変化する。ニトロゲナーゼは2つのタンパク質から構成されており、そこに含まれる金属によりFeタンパク質、Fe,Moタンパク質と呼ばれる。

Feタンパク質は細胞内で代謝により生産される電子を集める働きがあり、電子の(electron sink)と呼ばれる。Fe,Moタンパク質はNおよびHを還元する活性中心である。Feタンパク質がMgATPと結合して、ATPを分解してADPを生成する時に発生するエネルギーを利用すると共に、Fe,Moタンパク質とドッキングして、電子を伝達することによりN,またはHを還元する。その機構は現在完全に解明されているわけではない。この反応は生化学反応の中でもっとも複雑なものの一つであろう。

FeMoタンパク質にはFe,Moを中心とするCoファクターと呼ばれる金属錯体がありこれはFeMo cofactorと呼ばれている。Feタンパクには1個の4Fe4S clusterがあり、これは鉄―硫黄タンパクによく見られるものである。MoFeタンパク質は2個の金属―硫黄 clusterがあり、それらはP clusterおよびFeMo cofactorと呼ばれている。P clusterは8個のFeを含み、後者は1個のMoと7 個のFeを含んでいる。ドッキングの際に電子は先ずP clusterに伝達され、その後FeMo cofactorに伝達される。FeMo cofactor は基質であるN2の結合部位と考えられている。このときATPは分解されてADPとなる。現象論的には以上のように説明されているが反応の機構は明らかではない。基質となる物質は表1のようなものである。これらの基質の中で注目すべものは、H,CH≡CHである。Hは1電子還元でH2を生成し、CH≡CHは2電子還元でCH2=CH2(エチレン)を生成する。この反応はニトロゲナーゼ活性の簡便な測定法としても用いられている。またCO(一酸化炭素)はニトロゲナーゼの非拮抗的阻害剤である。

さてこの反応で消費されるエネルギーはATPの形で与えられるのであるが、この反応が続行するためにはATP再生系を用いなければならない。古典的にはクレアチンリン酸とクレアチンキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸(PEP)とピルビン酸キナーゼの組み合わせが知られているが、経済的に見合った反応とはいいがたい。しかし最近ある種の細菌からポリリン酸とポリリン酸合成酵素をもちいてATPを合成する系が確立され、注目されているので近い将来には効率のよい応用できるATP再生系が構築されるであろう。

     ニトロゲナーゼの基質

 

研究が嫌気性の微生物から始まったのは、ニトロゲナーゼという中心となる酵素が酸素の弱いという事実から納得出来ることである。しかし我々の住む地球には酸素が充満しているのだから好気性の微生物もいるし、光合成により昼の間は太陽のエネルギーを遣い炭酸ガスと利用して、グルコースを作り、夜になると窒素を固定するのであるが、光合成という反応は水を分解して酸素を生産するのであるから、ニトロゲナーゼを酸素から保護する必要がある。このような微生物の代表がシアノバクリアである。生物化学という方法では

これらの現象を理解することは出来ない。また窒素固定が出来る微生物はprokaryoteといわれるものとArchaebacteria(古細菌)といわれるものに限られている。原核細網であり真核細胞(酵母)では見つかっていない。しかし植物は窒素固定が出来ないが根粒菌と呼ばれる微生物を取り入れて窒素固定をしている。この現象を共生的窒素固定といい、前者をfree-living nitrogen fixationという。なぜこのように窒素固定の酵素の進化が止まってしまったのか、誠に不思議でいまだに理解されていない。

私の博士論文は共生窒素固定の研究だったので、この度の国際シンポジュ―ムが宮崎で開催されたことは大変ありがたいことであった。いろいろ勉強になり、皆さんにこの場を借りて紹介しようと思い立ったのである。この学会の招待講演者の中で、共生的窒素固定に関するものを下記にリストアップする。

1, A two-step receptor mediated recognition process controls rhizobial infection in Lotus japonicus

2. CLE peptide signaling in long-distance control of nodulation

3. Calcium encoding and decoding during symbiotic signaling

4. Parasponia to unravel the genetic blueprint for a nitrogen fixing rhizobium symbiosis

5. The LPS of Photosynthetic Bradyrhizobium strains display two unique facets that play distinct symbiotic role

6. Controlling endosymbiotic bacteria with antimicrobial peptides

7. Regulatory coupling of nitrogen and carbon metabolism in nitrogen-fixing Pseudomonas stutzeri A1501

8. Comparative and population genomics of five genospecies of Sinorhizobibium

9. Legume species radiation, polyploidy, and the origins of nitrogen fixation

10 Genome-guided approaches toward understanding the actinorhizal symbiosis

11. Membrane transport proteins identified by cell- type specific transcriptomic and their functions in Lotus japonicus nodules

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